インサイトについて

あたくしのお仕事はマーケティングですが、マーケティングで非常に重視されるのが「インサイト」。
このインサイトについて参考になる情報をノート代わりに記載。


インサイトを探る

――それは消費者の気持ちを見つけ出すこと。
本来は「消費者インサイト」という言葉だが、直訳すると「洞察」だが、わかりやすくいえば、消費者の「ホンネ」である。
行動や態度の奥底にある、本当の気持ちのことだ。

最近、マーケティングや広告の世界でやたらと耳にするようになったが、まだ曖昧に使われていることも多い。
ただ、この言葉は急速に広まりつつある。そのうち、「ターゲット」や「コンセプト」と同じようにだれもが普通に使う言葉に
なるかもしれない。

インサイトの考え方には、実は誰もが普段から知らず知らずのうちに接している。
雑誌などで「男のホンネ」「女のホンネ」といった特集をよく見かけるが、あれなどまさに男女関係のインサイト
相手の言うことや、することから深層心理を探ろうとしている。
それは、言葉が本当の気持ちを表しているとは限らないことを知っているからだ。


私が友達から「相談に乗ってほしいことがあるんだけど」と切り出されたときのこと。
相談に乗ってほしいと言うからには何らかのアドバイスを求めていると思い、いろいろ話をした。

しかし、相手が望んでいたのは、単に話を聞いてもらうことだった。


自分なりの結論はすでに出ていて、それに賛成してほしかっただけ。
結局、感謝されるどころか、「どうして話を聞いてくれないの」と思われてしまっただけだった。
言葉に込められた本当の意味を理解するのは、実に難しい。


人はホンネを簡単に話してくれるわけではないし、当の本人が自分の深層心理に気付いていないことも多い。

こんなふうに日常生活では、みんなインサイトを探っている。
直感を働かせて、本当の気持ちを知ろうとしている。

インサイトとは、いろいろ直感を働かせて探り出したホンネのことなのだ。

親しい人のホンネを知ることでさえ大変なのに、消費者の気持ちを理解するのはどれほど難しいことか。

データをちゃんと分析しているのにモノが売れない。

熱心に消費者の声を聞いているのに満足してもらえない。

トレンドをいつもチェックしているのに、なぜか的を外してしまう……。


どうして、ビジネスになると直感が働かなくなるのか。
人の気持ちを頭で考え、理詰めでとらえようとしてしまうのか。

一つには、ビジネスは客観的であらねばならないという、「神話」があることだろう。
まさか直感で物事をとらえたり決断を下したりするわけにはいかない。

データがないとまわりも上も説得できない。
みんなそう信じている。
とくにマーケティングは客観的な数字をもとにする科学だから、非科学的な考え方は排除されてしまいがちだ。

マーケティングはそもそも、戦争で勝つための戦略をビジネスに転用したものだ。

領土の代わりにユーザーやシェアを占有したり、エリア・マーケティングという局地戦に置き換えたりしているだけである。

だから、基本的には物量がモノをいう。

兵力や武器の代わりに、広告やプロモーションの投下量が勝敗を分けると考える。

これらは、数量的に法則化されたものだ。
一定の投資によってどれだけの成果が期待できるかを、数字で結果を予測し検証できる、だれもが納得できる活動をよしとする。

担当者が入れ替わっても失敗せず、同じ成果を得られることを目指している。
つまり、リスクの最小化が目的なのだ。

しかし、だれもが受け入れられるものから突出したアイデアは生まれない。
当たり前の結論と、常識的な活動が待っている。
また、方向性は正しくても、数字で検証できないことは通らない。

もちろん直感だけで最後まで意見を押し通したり、最終決定を下したりするわけにはいかない。

だからといって、客観的な数字に基づいてピント外れの結論を出していては元も子もない。

数字の奥にある本当の意味を掘り下げないと、理解が表面的になってしまう。

二つめは、つい企業側からの発想で消費者を見てしまうことだろう。

たとえばメーカーであれば、モノが起点になりがちだ。
これだけの技術革新があるのだから消費者も驚きをもって受け入れてくれるはずだと思ったり、
消費者から見ればわからないような違いを大きな差別化ポイントだと思い込んでしまったりする。

しかし、普段生活しているときのことを思い出し、いち消費者の立場に戻ってみればすぐわかることだ。
何かを買うとき、いつも細かな点まで比較して論理的に判断しているとは限らない。
なんとなく買い物かごに放り込んだり、こっちのほうがカッコいいかな、くらいの感覚で選んだりすることも多い。
けっして理性だけで動いているわけではない。ところが、仕事で関わる商品となると、きちんと論理的に吟味されるかのように思ってしまう。
消費者の気持ちを知るには、いったん自分の関わっている製品やカテゴリーのことを忘れなければならない。
消費者はつくり手とは違って、一日中その製品のことを考えているわけではないのだから。

それでは、消費者のホンネはどこにあるか。

たとえば、「緑茶飲料が売れている」(消費者が選んでいる)、「郊外のアウトレット店が繁盛している」(人が集まっている)とか、
「ラップが流行っている」(消費者が聴いている)など、消費者が実際に行動していて数字で表しやすい現象面が、海面から上の部分だ。

一方、水面下には、その商品を選ぶのはどういう気持ちからなのか、その店に殺到するのはどういう気持ちの表れなのか、
その音楽はどういう気分にさせてくれるからなのか、といった消費者のホンネがある。

ただ、ホンネのすべてがインサイトかというと、そうではない。
ブランディングマーケティング活動、コミュニケーション活動などのアクション(施策)につながるものに限られる。
そうでないものは、いくら消費者のホンネであってもインサイトではない。

インサイトの本質は、消費者に行動を起こさせる点にある。
インサイトは、いわば消費者の「心のホット・ボタン」なのだ。

そのボタンを押されると、消費者は気持ちを揺り動かされて態度を変える。
行動を起こす。
場合によっては、習慣さえも変える。
単に、そのブランドや製品を好きになるというだけではない。
購入という行動を起こしてくれる。
インサイトは、消費者に行動を起こさせるスイッチであり、インサイトを探り出すことは、そのスイッチがどこにあるかを明らかにすることだ。

もとはといえばインサイトは、アカウント・プランニング――欧米の広告会社が
より効果的な広告クリエイティブ(映像やコピーなどの表現)を開発するために生み出した考え方――から始まったものである。
それがいまでは、マーケティング活動全体を考えるうえで欠かせないものとなった。

いずれにせよインサイトは、だれも気付かなかった消費者のホンネを見つけ出し、大胆で画期的な結論を導き出すものだ。
つまり、市場が伸びない、売上げが頭打ち、強力なライバルに押されているといった閉塞した状況を
一気にブレークスルーする(突破する、打開する)ことを目的としている。